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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)766号 判決 1969年5月02日

上告人

株式会杜兵庫相互銀行

上告人

森本貞郎

代理人

堀部進

松永辰男

被上告人

塩見電気工業株式会社

被上告人

塩見幸治

代理人

南舘金松

南舘欣也

主文

原判決中、上告人らの敗訴部分を破棄する。

右破棄部分につき、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人堀部進、同松永辰男の上告理由について。

論旨は、昭和三七年三月下旬上告人株式会社兵庫相互銀行(以下単に上告銀行という。)と被上告人塩見電気工業株式会社(以下単に被上告会社という。)との間に被上告人らの主張するような金四二万円の新規貸付契約が成立したことを肯定した原審の事実認定には、原判決の結論に影響を及ぼすことの明らかな経験則違肯の違法があるというにある。

そこで、原審の右事実認定について検討するに、その事実認定には次のような問題点の存在することが認められる。

(一)  まず、原審は、上告銀行と被上告会社との間に右のような新規貸付契約が成立したことを肯定する証拠として、成立に争いのない甲第一号証、第一審証人都築清子の証言および第一審における被上告会社代表者兼被上告人塩見幸治本人尋問の結果を挙げている。しかし、これらの証拠のうち、甲第一号証は、その記載内容および原判決挙示の証拠関係によれば、昭和三七年四月二日上告銀行によつて作成され、かつ、同日上告銀行から被上告会社に交付された計算書であることが窺われるところ、他方、原判示によれば、右同日上告銀行は被上告会社に対し金額四二万〇、六四〇円の本件不渡手形を返還したのみで新規貸付を拒否し、かつ、右不渡手形の返還と引換に被上告会社から金額四二万円の本件手形の交付を受けていることが認められるというのであるから、右事実関係と甲第一号証とを照合して考察すれば、甲第一号証の貸付金四二万円なる記載が上告銀行から被上告会社に対してなされる新規貸付金の金額を意味すると解することは困難であり、むしろ、右記載は上告銀行が被上告会社に返還した右不渡手形の金額(の内金)を意味するにすぎないと解するのが自然である。けだし、上告銀行が一方では新規貸付を拒否しながら、他方ではその同じ日に、新規貸付金の金額を記載した計算書を作成、交付するということは、甚だ不自然であるし、また、もし上告銀行が被上告会社に対し右不渡手形を返還するとともに、金四二万円の新規貸付をもする意思であつたとすれば、上告銀行は甲第一号証に右不渡手形金と右新規貸付金との合計額に相当する金額を記載し、かつ、被上告会社に対してもそれと同額の新手形の交付を要求するのが通常であるというべきであるからである。

(二)  また、原審は、被上告人らの主張するような新規貸付契約が成立したことを肯定し、これを反する第一審における上告人森本貞郎本人尋問の結果を排斥する重要な一理由として、定期預金を担保としてその預金額の貸付をすることも銀行取引上珍しいことではないと指摘している。しかしながら、原審がいかなる証拠により右のような事実を認定したものか、原判文によるも、これを明らかにすることができない。のみならず、仮に一般論としては、右のような事実の存在を肯認することができるとしても、本件においては、原判示によれば、被上告会社は昭和三七年三月当時金策に窮していたものであり、かつ、上告銀行もその事実を知つていたことが認められるというのであり、しかも、原判決挙示の証拠関係によれば、被上告会社は上告銀行にとつては従来何らの関係もなかつた新規の取引先にすぎなかつたことが窮われるのであるから、このような事実関係のもとにおいては、貸付の安定性ないし確実性を重視すべき銀行が、定期預金のみを担保として、その預金額の倍額の貸付をするということは、よほど特段の事情の存在しないかぎり、ありえないことというべきである。

(三)  さらに、原審は、右のような新規貸付契約が成立したことを肯定し、右上告人本人尋問の結果を排斥する他の理由として、もし上告銀行が当初から被上告会社に対し新規貸付をすることを拒否していたとすれば、被上告会社は異議申立提供金の返還を受けてこれを上告銀行に定期預金したり、訴外植手信義の特約上の債務を弁済したり、また、日掛預金をしたりするなどの不必要な出捐をするはずのなかつたことを挙げている。たしかに、当時金策に窮していたとされる被上告会社の立場にのみ立つて考察すれば、右理由も一応首肯することができないわけではない。しかし、他方、被上告会社の相手方である上告銀行の立場に立つて考察すれば、上告銀行が被上告会社に対し、定期預金のみを担保として、その預金額の倍額の貸付をするということは、特段の事情の存在しないかぎり、ありえないというべきことは、右(二)において判示したとおりであるところ、原審は、そのような特段の事情の存在については、何ら認定判示していない。

(四)  なお、原判示によれば、原審は、被上告会社が上告銀行に対し本件不渡手形金の分割弁済を申し出た結果、右両者間に被上告人らの主張するような新規貸付契約が成立し、かつ、右新規貸付金については、これを一〇回分に分割して弁済する旨の合意が成立したことを認定していながら、肝心の右不渡手形金の分割弁済については、右両者間に果して合意が成立したのか否か、また、その合意が成立したとすれば、いかなる合意が成立したのか、何ら触れるところがない。さらに、原判決および本件記録を検討するも、昭和三七年三月下旬ごろ上告銀行と被上告会社との間に右のような新規貸付契約が成立したことを肯定すべき契約書等の作成された形跡は全く窺うことができない。

以上の(一)ないし(四)の各点を総合して考察すれば、原審の前記事実認定には、経験則違背ないし理由不備の違法があるといわざるをえず、かつ、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。してみれば、原審の右事実認定における右違法を主張する論旨は、理由があり、原判決中、上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(石田和外 草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

<参考> 第一審判決

(名古屋地方昭和三七年(ワ)第一八三〇号約束手形返還等請求事件、同昭和四〇年(ワ)第五〇九号損害賠償事件、同四一年五月二〇日民事第一部判決)

【主文】 原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

【事実】 第一、当事者双方の求める裁判

一、原告塩見電気工業株式会社(以下原告会社という。)

1 被告株式会社兵庫銀行(以下被告銀行という。)は原告会社に対し別紙目録記載の約束手形を引渡し、且つ四九、四三七円及びこれに対する昭和三七年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告銀行の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言。

二、原告塩見

1 被告等は連帯して原告に対し一一〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言。

三、被告等

主文同旨の判決

第二、当事者双方の主張とこれに対する答弁

一、請求原因

(原告会社の請求)

1 本位的主張

(一) 原告会社は昭和三六年一一月六日訴外植手電気製作所こと植手信義(以下植手という。)に対する商品代金支払のため同訴外人に宛て金額四二〇、六四〇円、満期昭和三七年三月一八日、支払地振出地共名古屋市、支払場所株式会社中央相互銀行浄心支店なる約束手形一通(以下本件不渡手形という。)を振出したが、植手は同手形を被告銀行に裏書譲渡し原告会社に商品を引渡さないうちに倒産してしまつたので、原告会社は右手形の支払を拒絶し、名古屋手形交換所に手形金を供託して不渡処分の発表を免れた。

(二) 当時原告会社は金融難に陥つており右供託金を取戻してこれを使用する必要があつたので、右手形の所持人である被告銀行名古屋支店に赴き担当行員である被告森本を通じて被告銀行に対し右手形金の分割弁済を申入れたところ、被告銀行はこれを承諾し、昭和三七年三月二二日原告会社代表取締役原告塩見と被告銀行間に次のような示談契約(以下本件示談契約という。)が成立した。

(イ) 原告会社は被告銀行の同意を得て手形交換所から供託金四二〇、六四〇円を取戻し、これを被告銀行に預入れ、被告銀行は右預金を担保に原告会社に対し四二〇、〇〇〇円を利息は日歩二銭の約で貸与する。

(ロ) 原告会社は右債務を昭和三七年五月から同三八年二月まで毎月末日限り四二、〇〇〇円宛分割弁済する。

(三) 原告会社は当時電気部門の外パチンコ店を経営し、毎日相当額の現金収入があつたので、被告森本の勧めにより右割賦金の弁済を確保する意味も含めて日曜日を除き毎日四、〇〇〇円を被告銀行に日掛預金することになり、昭和三七年三月三〇日その第一回掛金として四、〇〇〇円を被告銀行に預入れ、翌三一日被告銀行の同意を得て手形交換所から供託金を取戻し、これを被告森本を通じて被告銀行に交付した。

翌月二日午前一一時頃被告銀行より原告会社に対し計算ができたので清算金六、二二九円と日掛金四、〇〇〇円及び原告会社の印鑑を持参して来行されたい旨の電話があつたので、原告塩見は原告会社の会計担当社員訴外都築清子(以下都築という。)を原告会社の代理人として被告銀行に赴かせた。ところが被告森本は都築に対し金額四二〇、〇〇〇円、満期昭和三七年四月三〇日、支払地振出地共名古屋市、支払場所被告銀行名古屋支店、振出日昭和三七年四月二日、受取人被告銀行なる約束手形一通の振出人欄に原告会社の記名印及び印鑑を押捺するよう要求したので、事情を知らない都築はその要求を入れ右約束手形の振出人欄に原告会社の記名印及び印鑑を押捺し、原告会社名義の約束手形一通(別紙目録記載の手形、以下本件手形という。)を振出し、原告会社振出の金額六、二二九円及び四、〇〇〇円の小切手各一通と共にこれを被告森本を通じて被告銀行に交付し、被告銀行は右金額六、二二九円の小切手金を甲第一号証(計算書)記載のとおり利息、延滞損害金等の弁済に充当し、右金額四、〇〇〇円の小切手金を日掛預金の払込に充当した。

しかるに被告銀行は都築に本件不渡手形を返還したのみで、本件示談契約に基づく貸付金四二〇、〇〇〇円を交付せず、不渡手形の決済は終了した旨称し都築を帰社せしめた。

(四) 以上の事実を総合すると被告銀行は原告会社に対し四二〇、〇〇〇円を割賦弁済の約で貸付ける意思がなく、原告会社が手形交換所から取戻した供託金を本件不渡手形の弁済に充当する意思でありながらこれを秘し、被告森本と共謀の上原告会社代表者原告塩見に対し取戻した供託金を被告銀行に預入れゝば右預金を担保に改めて原告会社に四二〇、〇〇〇円を貸与する旨申し向け、その旨原告塩見を誤信せしめたうえ本件示談契約を締結させ、本件手形、清算金六、二二九円及び日掛金八、〇〇〇円を窃取したものというべきである。よつて原告会社は被告銀行に対し本訴をもつて本件示談契約を取消す旨の意思表示をした。

従つて被告銀行は原告会社に対し本件手形、清算金及び日掛金を返還し、且つ原告会社が蒙つた損害を賠償すべき義務あるところ、原告会社は前記のような事情で被告銀行から四二〇、〇〇〇円の貸付を受けることができず極度の金融難に陥つたので、やむなく昭和三七年四月一一日訴外市原恒雄(以下市原という。)から四〇〇、〇〇〇円を弁済期同年七月一〇日、利息日歩一二銭の約で借受け、市原に対し利息四三、六八〇円を支払つた。被告銀行が本件示談契約に基づき原告会社に対し金員の貸付をしておれば右期間に対応する利息は七、六四四円であるから原告会社が被告銀行の不法行為により差引三六、〇三六円の損害を蒙つたものといわなければならない。

よつて原告会社は被告銀行に対し本件手形の返還並びに四九、四三七円(右清算金六、二二九円の内金五、四〇一円日掛金八、〇〇〇円、損害金三六、〇三六円を合計した金額)及びこれに対する訴状(昭和三七年(ワ)第一八三〇号事件の)送達の翌日である昭和三七年一〇月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3 予備的請求

仮に右主張が理由のないものであるとしても、被告銀行は本件示談契約に基づき原告会社に対し昭和三七年四月二日四二〇、〇〇〇円を利息日歩二銭、一〇ケ月月賦弁済の約で貸与すべき責務を負担しているにもかかわらずこれを履行しないので、原告会社は被告銀行に対し本訴をもつて本件示談契約を解除する旨の意思表示をした。

よつて被告銀行は契約解除に基づく原状回復義務により原告会社に対し本件手形、清算金のうち五、四〇一円(但し清算金六、二二九円から本件支払手形に対する自昭和三七年三月一九日至同月三〇日の手形法所定年六分の割合による損害金合計八二八円を差引いた金額。)及び日掛金八、〇〇〇円を返還し且つ右債務不履行によって原告会社が蒙つた損害を賠償すべき義務あるところ、前記のとおり原告会社は被告銀行の債務不履行により他より高利で金融を受けるのやむなきにいたり、その結果三六、〇三六円の損害を蒙つたので、原告会社は被告銀行に対し本件手形の返還並びに四九四三七円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三七年一〇月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(原告塩見の請求)

原告塩見は被告銀行と本件示談契約を締結した当時原告会社の代表取締役として同会社を経営していたが、前記のような被告等の不法行為により資金繰りに困難をきたし、やむなく高利の金融を受けることになり精神上耐え難い苦痛を受けたので、その慰藉料として被告等に対し一一〇、〇〇〇円の支払を求める。

よつて被告等は原告に対し一一〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状(昭和四〇年(ワ)第五〇九号事件の)送達の翌日である昭和四〇年三月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する被告等の答弁並びに主張

1 請求原因1の(一)の事実は認める、同(二)の事実のうち原告会社が被告銀行とその主張の日にその主張のような日掛預金契約を締結し、昭和三七年三月三〇日その第一回掛金として四、〇〇〇円を被告銀行に預入れ、翌三一日被告銀行の同意を得て手形交換所から供託金を取戻し、これを被告森本を通じて被告銀行に交付したこと、同年四月二日被告銀行が原告会社代理人都築から原告会社提出の金額六、二二九円及び四、〇〇〇円の小切手各一通及び本件手形の交付を受け右金額六、二二九円の小切手金を甲第一号証(計算書)記載のとおり利息、延滞損害金等の弁済に充当し、右金額四、〇〇〇円の小切手金を日掛預金の払込に充当したこと、被告銀行が右同日都築に対し本件不渡手形を返還したことは認めるもその余は否認する。同(三)の事実は否認する。原告会社の予備的主張は争う。原告塩見の主張事実のうち同原告が原告会社の代表取締役であることは認めるもその余は否認する。

2 原告会社代表者原告塩見は本件不渡手形の所持人である被告銀行に対し右手形金の分割弁済を申入れたので、昭和三七年三月下旬頃被告銀行は原告会社と次のような契約を締結した。

(イ) 原告会社は被告銀行の承諾を得て手形交換所に供託している供託金四二〇、六四〇円を取戻しこれを被告銀行に定期預金する。

(ロ) 原告会社は本件支払手形金債務の弁済を担保するため右定期預金を被告銀行に差入れ、右債務を昭和三七年五月から同三八年二月まで毎月末日限り四二、〇〇〇円宛分割弁済する。

その後右割賦金の弁済方法につき被告銀行は原告会社と、原告会社は被告会社に日曜日を除き毎日四、〇〇〇円宛日掛預金をし右割賦金債務と右日掛預金債権を対当額で相殺する旨の相殺契約を締結した。

右契約に基づき原告会社は昭和三七年三月三一日被告銀行の同意を得て供託金を取戻し、これを同日被告銀行に定期預金し、同年四月二日右定期預金を被告銀行に債務の担保として差入れたので被告銀行は本件不渡手形を原告会社に返還し、原告会社が被告銀行に対し四二〇、〇〇〇円の債務を負担していることを明確にするため原告会社より借用証書代りに本件手形を差入れてもらつた。このようなことは銀行が手形貸付をする場合の慣行であって、原告会社代表者原告塩見も当然そのことを承知していたのである。

以上のとおり被告銀行は原告会社代表者原告塩見とその主張のような内容の示談契約を締結したことがなく、又現金四二〇、〇〇〇円を貸付ける旨を約したことはないから、被告等の詐欺もしくは債務不履行を前提とする原告等の本訴請求は明らかに失当である。

3 仮に原告会社の請求が理由があり原告会社が被告銀行に対し四九、四三七円の債権を有するとすれば、被告銀行は昭和四〇年三月二九日現在原告会社に本件手形金に対する約定遅延損害金四八、八六二円の債権を有するから、本訴(昭和四一年五月一三日の本件口頭弁論期日)において右債権をもつて原告会社の本訴債権とその対等額において相殺する旨の意思表示をする。よつて原告会社の請求は失当である。

三、被告銀行の抗弁に対する原告会社の答弁

被告銀行の相殺の抗弁事実は否認する。

第二、証拠<略>

【理由】一請求原因1の(一)の事実は当事者間に争がない。

二原告等は被告銀行が被告森本と共謀の上原告会社代表者原告塩見に対し手形交換所より取戻した供託金を被告銀行に預入れれば、右預金を担保に改めて原告会社に四二〇、〇〇〇円を利息日歩二銭、一〇ケ月の月賦弁済の約で貸与する旨申し向け、その旨原告塩見を誤信せしめたうえ右約定を骨子とする示談契約を締結させ、本件手形、清算金六、二二九円及び日掛金八、〇〇〇円を騙取した旨主張するのでまずこの点につき検討する。原告代表者の供述には右主張にそう部分もあるが、右供述は後記認定事実及び被告森本貞郎本人尋問の結果に照して信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。かえつて<証拠>を綜合すると本件不渡手形の所持人である被告銀行は満期(昭和三七年三月一八日)に右手形を支払場所(中央相互銀行浄心支店)に呈示したところ、原告会社は手形受取人の契約不履行を理由に右手形の支払を拒絶し、同日頃右銀行を通じて名古屋手形交換所に対し本件不渡手形金額に相当する現金四二〇、六四〇円を供託して異議の申立をしたこと、同月下旬頃原告会社代表者原告塩見は被告銀行の行員である被告森本を通じて被告銀行に対し本件不渡手形金の割賦弁済を申込み、昭和三七年三月二二日頃被告銀行代理人被告森本と次のような契約、即ち原告会社は被告銀行の承諾を得て手形交換所から供託金四二〇、六四〇円を取戻し、これを被告銀行に定期預金し、右定期預金を担保として本件不渡金のうち四二〇、〇〇〇円を昭和三七年五月から同三八年二月まで毎月末日限り四二、〇〇〇円宛分割弁済する旨の契約をした。その数日後原告塩見は被告森本の慫慂で被告銀行と日曜日を除き毎日四、〇〇〇円を被告銀行に日掛預金し、右預金のうちから毎月四二、〇〇〇円を本件不渡手形の弁済に振向ける旨の契約を締結したこと、右契約に基づき原告塩見は同月三〇日頃日掛金四、〇〇〇円を被告銀行に預入れ、翌三一日頃被告銀行との間で和解書を作成し、手形交換所から供託金を取戻しこれを同日被告森本を通じて被告銀行に交付したこと、同年四月二日原告会社代理人都築が原告塩見の委託を受けて被告銀行に赴き、被告森本の指示により金額四二〇、〇〇〇円、満期昭和三七年四月三〇日、支払地振出地名古屋市、支払場所被告銀行名古屋支店、振出日昭和三七年四月二日、受取人被告銀行なる約束手形一通の振出人欄に原告会社の記名印及び印鑑を押捺し、原告会社振出名義の約束手形一通(本件手形)を振出し、原告会社振出の金額六、二二九円及び四、〇〇〇円の小切手各一通と共にこれを被告銀行代理人森本に交付し、被告銀行は右金額六、二二九円の小切手金を第一本件不渡手形に対する満期(昭和三七年二月一八日)の翌日から昭和三七年四月二日までの日歩二銭六厘の割合による利息金一、六四〇円並びに日歩四銭の割合による延滞損害金一、五一三円(但し右利息金及び延滞損害金の計算は被告銀行と植手との手形取引約定に基づく。)、第二本件不渡手形に対する昭和三七年四月二日から同月三〇日までの日歩二銭の割合による利息金二、四三六円、第三本件不渡手形金内金六四〇円の各弁済に充当し、右金額四、〇〇〇円の小切手金を日掛預金の入金に充当し、先に原告会社より寄託を受けた供託取戻金四二〇、六四〇円をもつて原告会社名義の定期預金を設定し、同定期預金について担保預り通帳を発行し、原告代理人都築に対し本件不渡手形を返還したことが認められ、右認定に反する証人大塚辰雄の証言及び原告代表者本人尋問の結果は前掲各証拠に照して信用できない。前記認定事実に原告代表者、被告森本本人尋問の結果を綜合すると、原告代表者原告塩見は被告銀行代理人被告森本と前記認定のような契約を締結するさい同被告より不渡手形の弁済については手形貸付の形式をとりたい旨の説明を受けたので、手形交換所より取戻した供託金を被告銀行に定期預金すれば新たに四二〇、〇〇〇円の手形貸付を受けられるものと誤信し、被告銀行の要求に従つて被告銀行と植手間の手形取引約定に基づく約定利息、延滞損害金を支払い本件不渡手形を受戻したものと認められる。原告会社代表者はその尋問において、取戻した供託金を被告銀行に定期預金し、その上日掛預金で本件不渡手形金の弁済をすることになれば二重に資金を凍結されることになるから、商人である原告塩見がそのような馬鹿げた契約をするはずがない旨供述しているが、原告等の主張によれば被告銀行は右定期預金四二〇、六四〇円を担保に一見の客である原告に対し本件不渡手形金四二〇、〇〇〇円及び手形貸付金四二〇、〇〇〇円合計八四〇、〇〇〇円を毎月四二、〇〇〇円の割賦弁済の約で貸付たことになるが、被告銀行がこのような不利な取極めをしなければならない理由は全く認められないから、前記認定のとおり原告塩見と被告森本の間には意思の齟齬があつたものと認めるのが相当である。

以上のとおり被告銀行が被告森本と共謀の上原告塩見を欺罔し本件手形、清算金六、二二九円、日掛金八、〇〇〇円を騙取した事実は認められないから原告会社の本位的請求は失当である。

三原告会社は被告銀行が本件示談契約に基づき原告会社に対し昭和三七年四月二日四二〇、〇〇〇円を利息日歩二銭、一〇ケ月月賦弁済の約で貸与すべき責務を負担している旨主張するが、前記認定のとおり被告銀行が原告会社主張のような示談契約を締結した事実は認められないから、右契約の成立を前提とする原告会社の予備的請求は理由がない。

四、原告塩見は被告銀行が被告森本と共謀のうえ原告塩見を欺罔し、原告塩見の資金繰りに齟齬を生じせしめ、原告塩見に精神上耐え難い苦痛を与えた旨主張するが、前記のとおり被告銀行が被告森本と共謀のうえ原告塩見を欺罔した事実は認められないから、原告塩見の本件慰藉料請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当である。

五、以上の次第で原告等の請求はいずれも失当であるからこれを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を各適用して主文のとおり判決する。

(元吉麗子)

<参考> 第二審判決

(名古屋高第昭和四一年(ネ)第五四一号約束手形返還等諸求控訴事件、同四二年一月一三日民事第四部判決、原審名古屋地裁)

【主文】 原判決中、控訴人塩見電気工業株式会社より被控訴人株式会社兵庫相互銀行に対する請求を棄却した部分を取消す。

被控訴人株式会社兵庫相互銀行は控訴人塩見電気工業株式会社に対し、別紙目録記載の約束手形を引渡し、且つ金四万九、四七三円及びこれに対する昭和三七年一〇月一四日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原判決中、控訴人塩見幸治より被控訴人株式会社兵庫相互銀行及び被控訴人森本貞郎に対する請求を棄却した部分を左のとおり変更する。

被控訴人等は各自控訴人塩見幸治に対し金五万円及びこれに対する昭和四〇年三月一三日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人塩見幸治のその余の請求を棄却する。

控訴人塩見電気工業株式会社と被控訴人株式会社兵庫相互銀行間の訴訟費用は第一、二審とも右被控訴人の負担とし、控訴人塩見幸治と被控訴人等間に生じた訴訟費用は、そのうち金五七〇円を控訴人塩見幸治の負担とし、他を被控訴人等の負担とする。この判決は控訴人等勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

【事実】 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人株式会社兵庫相互銀行は控訴人塩見電気工業株式会社に対し、別紙目録記載の約束手形を引渡し、且つ金四万九、四七三円及びこれに対する昭和三七年一〇月一四日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人銀行の負担とする。被控訴人等は連帯して控訴人塩見幸治に対し、金一一万円及びこれに対する昭和四〇年三月一三日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被控訴人等の連帯負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。

控訴人等の事実上の陳述は、控訴代理人において「仮りに控訴人等主張の示談契約が被控訴人等主張の如き内容のものであったとすれば、それは控訴人会社の錯誤によるものであるから、右契約は無効である。」と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

被控訴人等の答弁並びに抗弁は次のとおりである。

(一) 被控訴人銀行は訴外植手信義より控訴人等主張の金四二万六四〇円の約束手形を譲受けこれを所持していたところ、右手形は不渡りとなつた。そこで控訴人会社から右約束手形金の分割弁済の申入れがあつたので、被控訴人銀行は控訴人会社と昭和三七年三月二二日次のとおり契約をした。

(1) 控訴人会社は右手形について手形交換所に預託した異議申立提供金四二万円を取戻したこれを被控訴人銀行に定期預金すること。

(2) 控訴人会社は右不渡手形金を一ケ月金四万二、〇〇〇円ずつ一〇回に分割して弁済すること。

(3) 右分割弁済の方法として控訴人会社は被控訴人銀行に一日金四〇〇〇円づつの日掛預金をなし、右預金を以つて右分割弁済金の支払にあてること。

(4) 右定期預金は右分割弁済金の担保とすること。

右契約に基づき控訴人会社は右異議申立提供金四二万円の還付を受けてこれを昭和三七年三月三一日被控訴人銀行に定期預金となし、又同年三月三〇日及び同年四月二日日掛預金として各金四、〇〇〇円を預入れた。よつて被控訴人銀行は昭和三七年四月二日控訴人会社から別紙目録記載の約束手形及び清算金六、二二九円を受取つて前記不渡手形を控訴人会社に返還した。

被控訴人銀行が以上の契約をなすに当り、控訴人会社に対し新たに金四二万円を貸付ける旨の契約を締結した事実はない。

(二) 仮りに控訴人会社が被控訴人銀行に対してその主張の如き債権を有するとすれば、被控訴人銀行も控訴人会社に対し別紙目録記載の手形について金四万八、八六二円の遅延損害金債権を有するから、これを以つて右債権と対等額において相殺する。

(証拠関係)<略>

【理由】第一、控訴人会社より被控訴人銀行に対する約束手形返還等請求について。

一 <証拠>を総合すれば次の事実を認めることができる。

(1) 控訴人会社は昭和三六年一一月六日訴外植手電機製作所こと植手信義にあて商品代金前払のため金額四二万六四〇円、満期昭和三七年三月一八日、支払地及び振出地共名古屋市、支払場所株式会社中央相互銀行浄心支店なる約束手形一通を振出し、同訴外人は被控訴人銀行において右手形の割引を受けていたところ、同訴外人が控訴人会社に商品を引渡さないうちに倒産したので、控訴人会社は手形交換所に異議申立提供金四二万六四〇円を預託して右手形の支払を拒絶した。

(2) 然し控訴人会社はその当時資金繰りに困窮していたので右異議申立提供金を有利に利用しようと考え、昭和三七年三月下旬右手形の所持人である被控訴人銀行に対し、右不渡手形金の分割弁済を申出でた結果、同月下旬被控訴人銀行の代理人である被控訴人森本貞郎との間に次のとおりの契約が成立した。

(イ) 控訴人会社は右異議申立提供金四二万六四〇円の還付を受けてこれを被控訴人銀行に定期預金すること。

(ロ) 被控訴人銀行は右定期預金を右不渡手形金債権の担保とすると同時に、右定期預金を担保として新たに控訴人会社に対し金四二万円を貸付けること。

(ハ) 控訴人会社は右新規借受金を毎月金四万二、〇〇〇円づつ一〇回に分割して弁済すること。

(ニ) 右分割弁済金にあてるため控訴人会社は被控訴人銀行に毎日(但し日曜日を除く)金四、〇〇〇円づつの日掛預金をすること。

(3) 右契約に基づき控訴人会社は昭和三七年三月三一日右異議申立提供金の還付を受け、これを同日被控訴人銀行に定期預金となし、且つ同月三〇日及び昭和三七年四月二日各金四、〇〇〇円を日掛預金として被控訴人銀行に預入れた。

(4) 被控訴人銀行は昭和三七年四月二日控訴人会社をして清算金として、

(イ) 金一、六四〇円訴外植手信義と被控訴人銀行間の特約に基づく右不渡手形金に対する昭和三七年三月一九日より同年四月二日までの利息。

(ロ) 金六四〇円不渡手形と別紙目録記載の手形金との差額。

(ハ) 金二、四三六円控訴人会社に対する新規貸付金四二万円に対する昭和三七年四月二日より同月三〇日までの間の日歩二銭の割合による利息

(ニ) 金一、五一三円訴外植手信義と被控訴人銀行間の特約に基づく右不渡手形金に対する昭和三七年三月一九日より同年四月二日までの間の遅延損害金

以上合計金六、二二九円を支払わしめ、且つ別紙目録記載の約束手形を振出さしめたが、前記不渡手形を控訴人会社に返還したのみで、金四二万円の新規貸付はこれを拒否した。

二、右認定に反する被控訴人森本貞郎本人尋問(原審第一、二回)の結果は左記理由によって措信し難い。

(イ) 甲第一号証に貸付金四二万円と記載し、これより不渡手形の約定利息、約定遅延損害金及び新規貸付金の利息等を控除し、差引残金四一万三、七七一円を控訴人会社に交付するように記載してあることに徴すれば、被控訴人銀行は当初新規貸付金四二万円から右清算金を控除して残金四一万三、七七一円を控訴人会社に交付する意思であつたと認められること。

(ロ) 被控訴人銀行が当初から新規貸付を拒絶していたとすれば、控訴人会社が異議申立提供金の還付を受けて被控訴人銀行に定期預金としたり、訴外植手信義の特約上の債務を弁済したり、或は日掛預金をする等不必要な出捐をする筈がないこと。控訴人会社としては新規貸付けが得られないならば、異議申立提供金を以つて右不渡手形金を弁済するか、或は異議申立提供金は植手信義との間の債権債務が解決するまでそのままにしておいて、被控訴人銀行に対しては右不渡手形金に対する年六分の割合による遅延損害金を支払うという方法を採る筈であり、それを敢えて不渡手形金に相当する現金を被控訴人銀行に預け入れ、何時でもその預金を以つて不渡手形金債務を決済できる状態にしておきながら、更に日歩二銭の利息を支払つて決済日を延期し、そしてその間日掛預金をして右不渡手形金の担保を増加するというような、凡そ経済観念に反する行為を商人たる控訴人会社がする筈がないのである。被控訴人森本貞郎は、控訴人会社が植手信義関係の他の不渡手形に対する関係上、本件不渡手形の分割払を希望したように供述するが、新規貸付を伴なわない単なる名目だけの分割払いならば、控訴人会社が前記のような不利益を忍んでまで分割払の形式を欲するとは思われない。又右不渡手形と別紙目録記載の手形との書替も控訴人会社にとつて何等利益がないから(却つて利息が増加するだけ不利益である)、控訴人会社が右手形の書替のためにだけ右不利益を忍んだとも思われない。

(ハ) 被控訴人銀行としても、若し控訴人会社に対し新規貸付を契約しないならば、被控訴人銀行と訴外植手信義との特約に基づく約定利息や約定遅延損害金を控訴人会社に負担せしめたり、或は控訴人会社をして右不渡手形と別紙目録記載の手形とを書替せしめて、その書替手形に対する日歩二銭の利息を徴収したりすることは、徳義上も法律上もできない筈であること。

(ニ) 定期預金を担保としてその倍額の貸付をすることは銀行取引上珍らしいことではないこと。

三、控訴人等は控訴人会社の右一連の行為は被控訴人等の詐欺に基づくものであると主張するが、苟も銀行ともあろうものが、単に不渡手形金の回収を確実にしたり、或は訴外植手信義に対する特約上の利息、遅延損害金を控訴人会社に支払わせたり、又は僅か一日金四、〇〇〇円の日掛預金に加入させたりするだけのために、控訴人会社を欺罔したとは常識上俄かに首肯し難い。(不渡手形金の回収は異議申立提供金に対する仮差押で簡単にその目的を達し得るのである。)そして他に被控訴人銀行が初めから新規貸付をする意思がないのにこれあるもののように装つて控訴人会社を欺罔したことを認めるに足る証拠はない。よつて控訴人会社の詐欺を理由とする右契約の取消は理由がない。

四、然し被控訴人銀行は、右貸付契約に違反して控訴人会社に対して右金四二万円の貸付をなさなかつたのであるから、被控訴人銀行は債務不履行の責を免れず、従つて控訴人会社が本訴において、右貸付契約と不可分の関係にある別紙目録記載の約束手形の振出行為、清算金支払契約及び日掛預金契約を解除する旨の意思表示をなしたことは理由があるものというべきである。なお右塩見幸治本人尋問の結果によれば、控訴人会社が昭和三七年四月三日被控訴人銀行に対し右貸付金の交付を請求したのに対し、同銀行は明らかにこれを拒絶したことが認められるから、控訴人会社が右契約解除をなすにつき改めて民法第五四一条所定の催告をなさなくても右契約解除の意思表示は有効であると解すべきである。

そうすれば、右契約解除に基づく原状回復として被控訴人銀行は控訴人会社に対し、別紙目録記載の約束手形及び右清算金六、二二九円、日掛預金八、〇〇〇円を返還すべき義務があるものというべきである。

五、次に控訴人会社主張の損害金の点について案ずるに、原審証人市原恒夫の証言及び前記塩見幸治本人尋問の結果を総合すれば、控訴人会社は被控訴人銀行から前記貸付が得られなかつたため、昭和三七年四月一一日訴外市原恒夫から金四〇万円を期間三ケ月の約で借受け、利息として金四万三、六八〇円(日歩一二銭)を支払つたことが認められる。そして右塩見幸治本人尋問の結果によれば、控訴人会社が昭和三七年三月頃金策に窮していたことを被控訴人銀行において知つていたことが推認できるから、被控訴人銀行が新規貸付を拒否すれば、控訴人会社は他から高歩の金を借りるのやむなきに至ることを、被控訴人銀行は知り又は知り得べかりしものというべきである。蓋し控訴人会社が他から容易に金融が得られるならば、同会社がそれまで取引のなかつた被控訴人銀行に対して本件のような方法による金融を依頼する筈がないことは何人も容易に推察し得るところであるからである。

してみれば被控訴人銀行は右貸付契約不履行に基づく損害賠償として、控訴人会社が支払つた右利息相当金を賠償すべき義務があるものというべきであるが、控訴人会社は被控訴人銀行から金四〇万円を借受ければ当然日歩二銭の割合による利息を支払うべき義務があつたわけであるから、被控訴人銀行の債務不履行によつて控訴人会社が支払を免れた右利息、即ち元金四〇万円に対する日歩二銭の割合による三ケ月分の利息金七、二八〇円を、損益相殺によつて右損害金四万三、六八〇円から控除し、その残額金三万六四〇〇円を被控訴人銀行は控訴人会社に支払うべき義務があるものというべきである。

六、被控訴人銀行は右債務に対し、同銀行が控訴人会社に対して有する別紙目録記載の約束手形に対する遅延損害金債権金四万八八六二円を以つて対等額において相殺すると主張するが、右約束手形振出行為は前記の如く解除されて、その振出当時に遡つて効力を喪失しているから、これに対して遅延損害金が発生するいわれはない。よつて被控訴人銀行の右相殺の抗弁は理由がない。

七、以上認定の計算を前提として控訴人会社の本訴請求を検討すれば、控訴人会社は前記清算金六、二二九円から前記不渡手形の遅延損害金八二八円を自ら控除してその残金五、四〇一円を請求しているからこれによるべく、又右損害金については前記認定の金三万六、四〇〇円の内金三万六、〇三六円を請求しているからこれによるべきである。そしてその外に前記認定の日掛預金八、〇〇〇円があるから、控訴人会社が被控訴人銀行に対して以上三口の債権合計金四万九、四三七円を請求する本訴請求は理由がある。

よつて被控訴人銀行に対し、別紙目録記載の約束手形の返還及び右金四万九、四三七円並びにこれに対する本件訴状が被控訴人銀行に送達せられた日の翌日であることが記録上明らかな昭和三七年一〇月一四日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人会社の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

第二、控訴人塩見幸治の被控訴人等に対する慰藉料請求について。

一、前記認定の如く被控訴人等が初めから控訴人会社に対し金四万円を貸付ける意思がないのにこれあるもののように装つて控訴人会社代表者塩見幸治を欺罔したことを認めるに足る証拠はないが、然し被控訴人銀行が後になつて右金員の貸付を拒否したことに徴すれば、被控訴人銀行においては控訴人会社の信用その他の関係上、同会社に対し右金員を貸付ける条件が具備していないのに拘らず、被控訴人森本貞郎が不注意により右貸付契約を締結したものと解せざるを得ない。そうすれば同被控訴人は過失により控訴人塩見幸治を欺罔したものというべきであるから、同被控訴人の右行為は控訴人塩見幸治に対する不法行為を構成するものというべきである。

控訴人塩見幸治は被控訴人銀行自身の不法行為をも主張するが、法人の不法行為は法人の代表機関の行為によってのみ成立することは民法第四四条の規定上明らかであるところ、本件は被控訴人銀行名古屋支店における行為であるから、右貸付契約に被控訴人銀行の代表取締役山本義政が関与したとは常識上考えられず、従つて本件につき被控訴人銀行自身の不法行為を認める余地はない。然し控訴人塩見幸治の主張せんとするところは、被控訴人銀行の被用者である被控訴人森本貞郎の不法行為によって、同控訴人が被つた損害の賠償を被控訴人銀行に求めるという趣旨であることが、弁論の全趣旨によって明らかであるから、同控訴人の被控訴人銀行に対する本件損害賠償の請求は、民法第七一五条第一項に基づくものであると解するのを相当とする。ところで被控訴人森本貞郎が被控訴人銀行の被用者であり、そして右不法行為が被控訴人銀行の事業の執行についてなされたものであることは、原審における被控訴人森本貞郎本人尋問(第一、二回)の結果によって明らかであるから、被控訴人銀行は民法第七一条第一項により右不法行為によつて控訴人塩見幸治が被つた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

二、そして前記控訴人塩見幸治本人尋問の結果によれば、控訴人塩見幸治は控訴人会社の代表取締役であるところ、被控訴人森本貞郎の言を信頼して種々被控訴人銀行と折衝したのに拘らず、昭和三七年四月三日に至り突然同銀行から貸付を拒絶せられ、その後非常に金策に苦慮したことが認められる。よつて控訴人塩見幸治の右精神的苦痛と被控訴人森本貞郎の右不法行為との間には相当因果関係があるものというべきである。

よつて控訴人塩見幸治の右精神的苦痛を慰藉するに足りる金額について案ずるに、同控訴人が控訴人会社の代表取締役であること、被控訴人等が銀行及びその被用者であること及び被控訴人森本貞郎の右不法行為の態様等諸般の事情を総合すれば、右慰藉料は金五万円を以つて相当と認める。

三、よつて控訴人塩見幸治の本件慰藉料の請求は、被控訴人等に対し各自(不真正連帯)金五万円及び右不法行為の後である昭和四〇年三月一三日以降右支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものである。

第三、結語

以上認定の理由により、控訴人等の請求を全部棄却した原判決は失当であるから、本件控訴は理由がある。よつて前記認定の趣旨に従い、民事訴訟法条三八六条、第九六条、第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。(神谷敏夫 松木重美 小沢博)

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